鳥取県と鳥取市が市内の湖山池で進めている汽水化事業の調査報告書をまとめ、双方のホームページで公開した。事業開始から8年8カ月。悪臭をもたらすヒシの繁茂は見られなくなり、ヤマトシジミ漁ができるようになったが、水質は改善されず、動植物の種数が減って生物多様性は悪化。功罪相半ばする状況になっている。汽水化に伴う問題に助言する有識者の一部は事業の見直しを求める意見を寄稿している。
湖山池の汽水化事業は2012年3月に始まった。湖山池から日本海に注ぐ湖山川の水門を操作して塩分濃度を東郷池（湯梨浜町）程度に引き上げ、汽水域として再生することが目的。背景には、淡水種のヒシの繁茂やアオコの発生などによる環境悪化があった。
調査報告書はA4判で200ページ超。6章に分け、汽水化が水質と生物に及ぼした影響、汽水化に伴う問題への対応策、汽水化の前後で実施した市民意識調査の結果などを説明している。
それによると、水質はCOD（化学的酸素要求量）が17年に湖山池の水質管理計画で定めた目標値を下回ったが、全窒素と全リンは「超過したまま」。水生生物は05～07年に確認されていた沈水植物のクロモなどと浮葉・浮遊植物のヒシなどが汽水化後、確認されなくなった。淡水種は「塩分上昇に伴って消滅した」。
貝類は県の特定希少野生動植物で淡水産のカラスガイなどイシガイ類と巻き貝類が汽水化後、見られなくなった。「貝類相が淡水産から汽水産へと大きく変化した」。魚類は定置網調査で03～11年に毎年、テナガエビ、オイカワなど15種が確認されていたが、14年以降は9種に減った。
汽水化後、「（ヒシ類の）生育は確認されていない」「アオコの発生は報告されていない」。ヤマトシジミが増え、14年6月から湖山池漁協が漁を開始。漁獲量は18年までに計約154トンに達した。
一方、淡水性の動植物は「種数が顕著に減少した」。カラスガイは「絶滅したことが確認された」が、保全に取り組み、「人工的に稚貝を再生産することに成功した」。「野生復帰方法の確立が今後の課題」としている。
19年9月の市民意識調査で汽水化事業に対する「感じ方」を聞いたところ、周辺、一般住民とも「良い」「どちらかと言えば良い」の合計が6割を超えた。
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巻末に湖山池環境モニタリング委員会委員の意見が掲載されている。委員会は汽水化直後に顕在化した淡水生物の衰退・消滅、湖底の貧酸素化の長期化などの問題に対応するため、県と市が12年9月に設置した。生態や魚介、植物などの有識者が委員となり、問題への対応方法などについて意見したり、助言したりしている。
意見を寄せたのは今年3月時点の委員と元委員14人のうち8人。中村幹雄氏（日本シジミ研究所長）は汽水化事業の実施を「英断」と評価する一方、3人は汽水化事業を始めた県と市を批判したり、事業の見直しを求めたりしている。
鶴崎展巨（のぶお）氏（鳥取大農学部教授）は「生物多様性は私たちが当初から指摘していたとおり、おそろしく貧弱になり、カラスガイなどの絶滅危惧種の多くは絶滅した。これは行政が自らの事業で地元の動植物を絶滅させた国内唯一の例である」と批判する。
下田康生氏（日本野鳥の会県支部）は冬のカモの飛来数が増えていることから「富栄養化と夏の無酸素化が急速に進行しつつある」と推察。現状の塩分濃度が続けば魚の大量死の「再発も予想される」とし、「新たな池の管理計画をつくるべきだ」と訴える。
モニタリング委の会長を長く務めた日置佳之氏（鳥取大農学部教授）は一研究者としての見解を示し、汽水化事業は「生活環境と漁業を優先し」、自然環境を犠牲にしたととらえる。漁業は「シジミだけに依存する形」になり、水質は改善していないと指摘。汽水化に至る経緯を振り返り、水質改善と生態系再生のため、湖山池と日本海を結ぶ水路（河川）の開削を改めて提案している。
モニタリング委の県側事務局を担う水環境保全課の田中将課長は「生活環境改善や水質改善などのため（県と市が設置した）湖山池会議の決定に従い、これが現時点の最善策と考えて汽水化に取り組んでいる。今後も継続して水質や生物の変化をモニタリングしてデータを集め、毎年2回程度、委員会に評価・点検を頂きながら取り組みを進めたい。今回の報告書は次期水質管理計画の策定に役立てていきたい」と話した。（石川和彦）
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November 11, 2020 at 08:00AM
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調査報告書をまとめ公表 湖山池汽水化事業で県と市 - 朝日新聞社
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