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Friday, April 24, 2020

売上が頭打ちだった"カロリーメイト"の役割を180度変えた「逆転の発想」とは | PRESIDENT WOMAN Online(プレジデント ウーマン オンライン) - PRESIDENT Online

皆さんおなじみのカロリーメイト。一度も食べたことがない、あるいは知らないという方はそんなに多くないのではないでしょうか。では、そのカロリーメイトのCMが大きく変わったことをご存じでしょうか。なぜ、CMが変わったのか、インサイト分析の第一人者・桶谷功さんが読み解きます。

オフィスで仕事をする女性たち

※写真はイメージです(写真=iStock.com/kokouu)

カロリーメイトのCMに一体何があったのか

プレジデント ウーマン オンラインをお読みのみなさん、こんにちは。桶谷功です。

この連載は身近な商品を例にとり、その背景にどんな企業戦略があるのかを読み解いていくというものです。前回は高級アイスクリームの「ハーゲンダッツ」を取り上げました。今回は大塚製薬の「カロリーメイト」を分析してみたいと思います。

カロリーメイトのCM、“KEEP THINKING”編がオンエアされたのは、2019年の春のことでした。サカナクションの山口一郎さんが、たくさんの機材に囲まれてコンピュータを操作しながら、カロリーメイトを口にします。でも視線はモニターを見たままで、表情も特に変化なし。そこへ山口さん自身による、こんなナレーションが入ります。

「考え続ける人にとって、栄養は味方になる。満腹は邪魔になる。“KEEP THINKING”、バランス栄養食、カロリーメイト」

以前のカロリーメイトのCMは、「がんばれ若造」というキャッチコピーとともに走り回る若者が登場したり、「お化粧する時間がなくても、これなら食べられる」というシーンを描いたりなど、とにかく急いでいるときでもすぐに食べられる利便性を強調していました。そのためどちらかというと、ドタバタしたものが多かったように記憶しています。ところが“KEEP THINKING”は静謐で思慮深い印象で、いままでとまったく方向性が違うのです。

私はこのCMを見た瞬間、「大塚製薬はカロリーメイトのイメージを180度変えようとしているな」と確信しました。

以前は「仕方なく食べるもの」だった

カロリーメイトが発売されたのはいまから40年近く前の1983年のこと。必要な栄養素がバランスよくとれるうえに、封を開ければすぐ食べられる手軽さが支持され、以来ロングセラー商品となりました。

いま、スーパーやコンビニ、ドラッグストアなどに行くと、カロリーメイトの横には「一本満足バー」「バランスパワー」など、何種類もの同じカテゴリーの商品が並んでいます。あるいはパウチに入ったゼリー飲料の「inゼリー」などもあります。

このカテゴリーの商品について消費者に意識調査をしたならば、おそらくこんな答えが返ってくることでしょう。

「朝、寝坊したときに食べるもの」
「本当は外にランチに行きたいけれど、行けないときに食べるもの」
「急な残業に備えてデスクの引き出しに常備しているもの」

つまり、「しょうがない。いいよ、もうこれで!」と思いながら食べるもの。妥協して仕方なく食べるものなのです。

売り上げ伸び悩みの理由とは

こんな消極的な理由で利用される商品は、いま以上に売り上げが伸びることはありません。「おいしかったから、また食べよう」「家族の分も買って帰ろう」とはならないからです。

一方でこの手の食品を、生まれてから一度も食べたことのない人はおそらくほとんどいないでしょう。商品名も知っているし、みんな一度や二度はお世話になっている。でも利用頻度は極端に少なく、「年に1回か2回、食べるかな」という程度。

このようなユーザーを「ライトユーザー」といいます。ライトユーザーとはヘビーユーザーの逆で、その商品をごくたまにしか買わない人のこと。カロリーメイトをはじめとした栄養食品の特徴は、ライトユーザーがやたらと多いということです。

もしもライトユーザーに時間のゆとりができると、どうなるでしょうか。そう、まったく食べなくなります。

「忙しい営業部にいるときは、出先でも食べてましたねえ。もうお腹が空いてたまらないときもありますしね。でも部署を変わったら、同僚と一緒にお昼を食べに行けるようになって、もうすっかりやめました!」となってしまう。おそらくそのために、カロリーメイトの売り上げは伸び悩んでいたのだと思います。

実は売り方が大きく変わるときというのは、売り上げが伸び悩んでいることが多いものです。なぜなら売り上げが伸びているなら、何も変える必要がない。そんなときに変革を提案しても、「どうして変えるんだ」「そこまで冒険しなくていいじゃないか」ということになる。売り上げが伸び悩んでいるときこそ、経営陣も大胆な決断に踏み切りやすくなるのです。

欠点を逆手に取った逆転の発想

おそらくカロリーメイトも売り上げが頭打ちとなったため、いままでとはまったく違う角度からの魅力を打ち出すことにしたのでしょう。2012年末から受験生の勉強や集中を応援する「とどけ、熱量。」が始まっています。また数年前にはポーランドの女流棋士をサポートし始め、サイトでも「考える人を応援するカロリーメイト」というメッセージを明確に出しました。

【図表】カロリーメイト販売個数の推移

そして2019年の“KEEP THINKING”です。実はこれは、カロリーメイトの欠点を逆手にとった発想から生まれています。忙しくてちゃんとした食事がとれず、カロリーメイトでしのいだ経験のある人は多いと思います。しかしカロリーメイトだけでは、しばらくするとお腹が空いてしまったのではないでしょうか。この「満腹にならない」という欠点を、“KEEP THINKING”のCMでは、逆に長所として強調しているのです。

「考え続ける人にとって、栄養は味方になる。満腹は邪魔になる。“KEEP THINKING”、バランス栄養食、カロリーメイト」というナレーションは、「頭脳労働に従事する人にとって、作業を中断することなく栄養がとれて、しかもお腹がいっぱいになりすぎない(ということは眠くならない)カロリーメイトは味方ですよ」と訴えている。まさに逆転の発想です。

超ヘビーユーザーを徹底調査することで見えてくること

一体、どのようにしてこのような逆転の発想に至ったのでしょうか。

これは私の推測の域を出ませんが、おそらくカロリーメイトを頻繁に食べているヘビーユーザーのなかに、「仕事中は満腹になりたくないから、あえてカロリーメイトを食べている」という人がいたのではないかと思います。

実は、消費者の意識を知るためのインタビューの手法のひとつに、「エクストリーム・ユーザー・リサーチ」というものがあります。ヘビーユーザーよりもさらに上をいくような、その商品をものすごく偏愛している人がいたら、その人に徹底的にその商品の魅力を聞き、そこにチャンスがないかどうかを探るやり方です。

たとえばお年寄りであるにもかかわらず、IT機器を使いまくっている人がいるとしましょう。そのような人が、消費者全体のなかに占める割合は決して多くはありません。しかしそのお年寄りがIT機器を使う目的や、独自に編み出した使い方などを知れば、ITの将来像が見えてくることがある。

集中力を切らしたくない人たち

同じように、カロリーメイトのエクストリーム・ユーザーに、「どうしてそんなに頻繁にカロリーメイトを食べているんですか?」と聞くと、メーカーですら気づいていないカロリーメイトのよさが見えてくることがあるのです。

私はIT関係の仕事をしている人から、「仕事に集中しているときは、食事の時間になったからといって席を立ちたくない」という意見を聞いたことがあります。せっかく集中しているのだから、そのまま作業を続けたい。でも空腹すぎても集中できないので、何か口にしたほうがいいとは思う。でもお菓子では栄養がないし、血の巡りが悪くなるような気がする。かといってコンビニのおにぎりでは、腹が膨れて眠くなってしまう。そういう人たちにとっては、カロリーメイトがまさにちょうどいいのでしょう。そこで「集中力があって、何かを成し遂げるプロフェッショナルは積極的にカロリーメイトを食べる」というイメージをCMで訴えかけることにしたのではないでしょうか。

みじめな食べ物からカッコいい食べ物へ

この“KEEP THINKING”のシリーズでは、引き続き受験生を応援するもの、ポーランド出身の女流棋士カロリーナさんを応援するものなどもつくられています。どちらも共通点は頭を使うこと。これでドタバタのイメージが強かった印象が一転。スマートなイメージになったのです。

いままでは、仕事をしながらカロリーメイトを食べるのは“惨めなこと”でした。

「あー、○○ちゃんカロリーメイト食べてる。忙しいんだ、かわいそー。ごめーん、悪いけど私たちランチに行ってくるね」みたいな感じだった。

ところが「集中を切らさないために、あえて満腹にならないカロリーメイトを選ぶ」となると、「仕事に集中している自分がカッコいい」「逆にみんなでゾロゾロ連れ立って昼飯を食いにいくやつに、仕事ができるやつなんかいないよ」という気分になるから不思議です。

“反対に”考えると新しい市場が見える

このように、見方を変えれば短所は容易に長所となりえます。ですから、まずはいったん反対にして考えてみるというのも手です。消費者がカロリーメイトを急いで食べているのなら、「少しでもゆっくり食べるときって、どういうときなんだろう?」と考えてみる。

前回取り上げたハーゲンダッツも、まさにそれまでのアイスクリームの常識を裏返しにしています。それまでアイスクリームといえば、子どもがおやつにパクパク食べるものだった。それを「子供」ではなく「大人」が、「3時のおやつ」ではなく、「1日の終わり」に、自分へのご褒美としてゆっくり味わって食べるものへと反転させたのですから。

このように人々の行動が変わると、新しいマーケットが生まれます。私たちは会社の上層部から売り上げ目標を言われると、「どうやって売るか」と、モノを売ることばかり考えてしまいます。しかしいままでと同じ利用のされ方では、マーケットは伸びません。それを変えるには何らかの人々の行動の変化があるはずです。それをつかまえることを意識してみてください。

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April 23, 2020 at 04:00AM
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